カ・ヘア:  さけび


深夜に雨のなかを一人で行くことは
以前よりとても困難で安全ではありません。
でも私は貴方をみつけそして何事もなく
       貴方とお話をするでしょう。

ここには誰も居ません。私には歌うことができません。
言葉が必要としている身体をどやって開放するでしょうか。
私は貴方に向って肩を、胸を、おへそを、太ももを
       露出します。

私のはだしの足の下、海のなかで不動の、ゆるぎない断崖。
私の広げた腕のかなたに開ける火のように衝撃的な空。
無から起る風を待つ間に、雨でずぶぬれた
       私のからだの岩塊。

失われたことがらを呼びよせながら依然として深い夜のなかで
小刻みにふるえはじめ断崖の内部に渦をまく
こんなにも純粋な寒さをいままでに私は
       知りませんでした。

柔らかな咬み傷。振るえ。躍動。貴方がいる所から起る
幽霊みたいな空気。
生の或る様式のまわりの時間に吹く
       夜の風。

そして私は貴方の記憶の眠りの裂け目のなかにと沈み、
おだやかに陥りながら貴方の夢の底知れぬ穴のなかへと沈みこむ。
私に必要なことがらを絶え間なく話し
絶え間なくゆすぶる風のなかに私はただよい
その風は断崖の基部の
沈黙のなかへと、安全のなかへと、朝のなかへと
私を導きおろしています。
 

戻 る    次 へ