ウルビーノにて

I

 ウルビーノでは恋は依然として
 古いことばで語られている。私たちの変化した生活にはあかしがある。
 公爵夫人があの最後の 「きれいな朝の
 バラの色」 を立ちながら見つめた
 同じ窓辺に立つために
 宮殿への急勾配の道を上らずとも
 私たちにかって知りえなかったことを私たちは知っている。
 実に悲しいことには −−
 それが失われてから
 私たちは互いが互いなので
 ウルビーノは私たちから失われている。
 すべての家の扉が施錠されている時刻の夜に到着する、
 この市以外には、冬に丘を上る長いドライブを価値あらしめる市はない。
 
 そこで起ったことがらの故に、そのことについて語り
 私の生涯にわたってそのことを私は賞賛しなければならない。

II

 私たちは一時ベニスに滞在した。そこでは
 ベランダを舐める銀のような水の感覚は
 息のように軽いタッチで耳をくすぐり
 石道はいつもずっとそうであったように
 アドリア海に続いていた。
 ある夕刻、私たちはゆっくり歩きながら
 大運河のなかへと太陽がどっと落ちてゆくのを見つめ
 私たちの手は薄れてゆく光に
 まるで大きな宝石を握っているみたいに硬直していた。
 
 びっくりさせてしまいましたか? ため息まじりに私は
 長く引きとめられていることにあきらめをつけた。
 「君にあげるものがある」 と貴方は言い
 コートから赤粘土でできている欠けた
 像を引き出した。 「ご覧よ、身体は輝き
 光を集めている。」
 暗がりはかさかさと音をたてた。
 アーモンドの香がした。
 貴方の指が不器用に私の胸を
 かすめた。私は息がとまった。貴方は
 震える私を引きよた。
 最初はためらいがちに、私たちの手のしぐさは
 まるでありふれたものではあっても、私たちは信頼しあうに至った。
 
 ベニスの素晴らしい尖塔や宮殿は
 私たちになじみのないものだけど
 私は朝そこに
 着いた ― 一本の樹木。白い運河から立ちのぼる
 蒸気のなかに立ちあがる
 つややかな緑の葉になっている五つのオレンジ。
 
 いま、ベニスは私の心のなかに咲きさかっていて、固定したその印象は
 アプリコットのもやを通して脈うち、
 また、すべるビルのまわり至るところに在る 
 磨かれた金の方尖塔はともに燃えすべっている。
 再び私は目ざめの鳥の地鳴きのような豊かな
 鳴き声を聴く。私は耳をかたむける: 鳴き声はひいてゆき
 ベニスに戻らなくとも、そこでは消ええない
 古代の沈黙のなかへと引き戻されてゆく。

III

 私たちはさびれた海沿いの平地をあまりに長く旅をしすぎ、
 また、ぎすぎすしたアッペンニネスを通って
 ウルビーノへと発する道を見つけるのには遅かった。夜が降りてきて
 ラピスラズリの坂の家々の
 やわらかな絆を枕に、私たちは静かに横になった。
 この道をきた
 カステリョーネとイエーツについて私は考えていた。
 私たちの地図を横切る
 大気のなかの両者の声を吹きつける風。
 私たちが壁の内側に車を駆る間
 冬は町の上に落ちていて、頭上の頂点には
 暗闇があるだけだった。

IV

 二人の間にあるものはそのあいだに広がる沈黙でしかないとき、
 どのようにして私たちは愛について語りえようか?
 無意識にちょっとした言葉が口をつき、
 そして永遠に沈黙は再びことばの周辺を閉じる。
 けれどそんなふうに変化したとき
 与えられた愛が減少したのだとは私は思わない。
 それはウルビーノの国々がすべてを信じたということから由来する
 赤い土壌であり、生活のための地面であり、
 大気であり、火であり、また水なのだ。

V

 ウルビーノでは四夜の会話におけると同じに
 四百年以前に
 ギルバルドの宮殿に起こり鳴り響いた古語が
 再び私たちの口をつくようになった。
 私たちは世界を、その端正さを、そしてその秩序を、
 また男性を、その鏡を、
 星々と季節々々の、太陽と月の巨大な回転を
 支配の、美徳の、学の宮中方式を賞賛する。
 なかんずく愛を。
 
 愛は私たちが登る石だらけの道、
 私たちがそこから見る高い窓、疲れを知らない
 会話の後の笑い、愛は市の
 丘、愛、壁、天候、朝の空気の
 すがすがしさ、山をさまよう風。
 愛は、すべての私たち、千回も
 許されまた信頼され、愛、裸の
 露出地層を熊手する歓呼、
 愛、最後にそして永遠にまちがった選択をし
 それを知っている男の叫びの市。

VI

 カステリオーネは、彼らは死んでしまったので
 自分にとっては最もしあわせの四である悲しみの王冠を
 心に抱くようになった、と言った。 「涙なしに
 列挙しえないこと、あの死には
 悲しみの荒野があり、すべての人々は死んでいても
 その深い悲しみは
 他のすべての人々を突き通す。」

VII

 私は残りのすべての年月を通じて一つの事実を辿っている。
 フローレンスへと下る山道のかたわらに
 ヒヤシンスの空の下、雨雲にかすみ
 真実のように裸で、四軒の石の家が建っている。
 
 建物とは記念碑である。
 火がそれを保持する地面に染みとおっていく前に
 輪を描いて舞いあがると同じ純粋な名前をもって
 人々はその地の名前とする。

VIII

 束の間、私たちは天使に変身し、
 「美しい肉体と美しい魂の花のなか
 私たちのあいだの
 此処にとどまっている
 独立した幸福」 を見た。
 一度、一度だけで二度とない。
 それ以上には、愛は現れえない。

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