靴工場の春


 春のはじめ
 空は雨雲で汚れ
 雨は降らず。
 指の爪先まで寒い。
 だけど、それは問題ではない。
 私にはそれが何であるのかわからないのだ―
 床の上に捨てられた靴の甲と底の断片、
 そしてペンキの塗られたコンクリートの床、
 黄ばんだ漆喰の壁、
 壁を横切るひび割れ、
 からまったミシンのすべて
 そして他の人たち、特に他の人たち。

 昼休みには市場をぶらつき、ピーナッツ、キャベツ、米、
 キャンデー、卵、
 赤い紙に包まれた温州ミカンなどなどの
 売店の間あいだに値切りの押し問答を聞く。
 温州ミカンは
 私の生活を束の間なぐさめてくれ、
 外皮のしわが果肉から剥がれるさま
 甘い味と色彩
 舌の上でたやすく転がる種
 皺の寄った紙 .

 ああ、どこか他の所に行きたい −どこでも、どこでも良い−
 それが問題だったのだ。

 

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