彼の育った家


 再び家に戻ったとき、ろ過された光を通して
 
その家は子供のころ自分の家であったと
 
彼には分るだろうか。涙でかすみあるいはぼやけまるまった
 
安息の場であった部屋々々。王子を取りまく
 
厚い生垣の茂みにかかる揺れ動くガラス窓。
 
彼自身はイボタの木に注ぐ太陽の緑の輝きの下で読書し。
 
若いころ、記憶により知る限りにおいて、夢の代替としての作り話である
 
エロチックな挿話を彼は創ったかもしれない。
 
 
純粋な恋愛に悩み、そして戦争、そんなころ彼には長く留まることはできなかった。
 
圧倒するドラマは知性という雲を生き
 
そしてひび割れは意思を明確にする。極めて身近に理由を聞き得ずして
 
誰人も愛しあるいは死ぬことはない。
 
生きて在り、彼は生家を去った、大きな
 
黒いキッチン・ストーブと擦り切れたリノリウムの家、
 
居間から離れた温室と裏庭の古い馬車置き場、
 
中庭のハナミズキ、コデマリ、レンギョウ、ユキノハナ。

 

 

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