光悦 ・ 月と兎


 
ある三月の夜、寒月
 
その月の石臼のなかに
 
兎が生命(いのち) の万能薬(くすり) を挽く
 
けれど春はあまりにさわやかにすぎ、兎は
 
クローバーの香る野原に飛び降りた。

 何ヶ月ものその間、月は来てまた去った。
 
金。いま月は満ち渡り、
 
古来からの伝説にあふれ、経巡(へめぐ)るにおもたく。
 
今、いままでに。
 
月は地球に一番近く。

 兎はためらいそして歩く。
 
小刻みにふるえ佇みその野原から
 
低い月を振りかえる。兎がもそもそ食べる
 
月光色のクローバーはそのやわらかな毛皮にとって
 
春の草のように若く  ー  まったくに若く。

 兎を取り巻くすべてのものは
 
そんなにも若く、石臼と杵は
 
すぐにでも帰らなければならなかったのにと真近に懸かり。
 
薬は底をついていて。
 
今夜、兎は月の中に跳び帰る。

( for Daryl and Martin,         
 remembering on "Exquisite Vision" )

戻る          次 へ